<2・かんちがい。>

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 ***  王様が、自分に一体何の用なのか。  ソフィアはお城でざっくりとドレスに着替えさせられることになった(流石に泥だらけの作業着で王様の前に出るのはちょっと……となったらしい)。  正直、このピンクのドレスはまったく似合っていない。長い緑色のポニーテールはそのままだが、髪の毛には何やらお花の飾りをごちゃごちゃつけられてしまい、頭を振るために音を立ててやかましくて敵わない。  胸も腰も肩もきつい。肩幅が広いから腕を振り回したら布地が裂けそうだし、大きな胸を締め付けられるのも苦しい。腹や腰回りに至ってはコルセットのせいで内臓が潰れそうなほどだ。この針金のはいりまくったスカートも意味がわからない。どうして王族貴族の女性は、こんな息しなくてもいいような服装が好みなのだろう? 「ソフィア。王の御前だ。なるべく丁寧な言葉遣いを心がけるように」 「そ、そげなこと言われても、俺お上品な言葉遣いなんかしたことなか……」 「わ・た・し!一人称だけでもなおせ、いいな?」 「えええええ……」  この使者、うるさくてたまらない。ていうか、頼み事をしにきた立場なのになんでこんなに偉そうなんだ。身分が高い男ってのはみんなこうなのか。  ぷんぷんしながらも、ソフィアは王様の御前に通されたのだった。そして。 「そなたがソフィアであるか」 「は、はい。お、おはつにおめ、おめにかかり?ます。ソフィアです」 「良い、顔をあげい」 「はあ……」  いきなり跪かされ、挨拶をさせられ。顔を上げればそこにいたのは、真っ白な髭の老人と同じく真っ白な髪の御婦人だった。キラキラした服に冠みたいなのを被っているし、多分あれが王様とお妃様なのだろう。いかんせん、新聞もろくに届かないような村の出身である。現国王と妃の顔なんか覚えているはずもない。 「たまご姫、とはそなたのことであるな?」 「え、え?」  そういえば、使者もそんなことを言っていたような。目を白黒させるソフィアに、王様は続ける。 「どんなたまごでも孵化させるという特殊スキルを持っていると聞いているが?」 「あ、あー……そ、そのことだべか……」  姫、なんて言うから何のことかと思った。というか、多分自分の話を聞いた誰かが、尾ひれをつけにつけまくって噂を流したものだと思われる。おしとやかな絶世の美女、なんてことになっていたらしいから尚更だ。 「王様も、何かお……わだじに孵して欲しい卵があんだ?」 「おいこら、敬語!」 「良い。儂も、様々な地方の国言葉に理解がないわけではない。楽に話してくれていい」  つっこみを入れてくる使者を制して、王様はそう言ってくれた。存外心の広い人物なのかもしれない。 「その通り。儂は、ある卵を孵化させたい。しかも、儂と妻にとっては世界でもっとも大切な卵と言っても過言ではないのだ。今まであの手この手を尽くしたが、どうあがいても孵化させることができなかった。このままでは、この国が滅んでしまうというのに……」 「そ、そんなに!?」  なんだか話のスケールが大きくなってきた。ソフィアは冷や汗をかく。正直、自分の手に余るような話が来るような気がしてならない。
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