<3・おうじさま。>

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<3・おうじさま。>

 卵になってしまったエリック王子は、自分で動くことはできないものの外の様子を見ることはできるらしい。卵のどこに目や耳があるんだ、というツッコミはしてはいけないようだった。ソフィアの顔も見えているようだし、周囲の話も聞こえている、卵の中から話すこともできるという。  ただ移動するためには人の手を借りないといけない上、万が一この状態で卵が割れてしまったら彼の命もないという。 「王子様、えっと、いろいろ聞かせてくれ……じゃなかった聞かせてくれ、ません、か?」 「気にすることはありません。あなたが話しやすい喋り方で話してくれませんか」 「だ、だべ?んじゃ、遠慮なく……」  お城の庭にて。テラス席でお茶を入れてもらったソフィアは、居心地悪いなと思いつつワゴンの上の王子に話しかける。 「俺、いつもみたいに卵を孵化しようとやってみたんだけども。どうにも、何か強い鍵がかかっているというか、それを解かないと孵化させることができねえみたいだ。多分、魔女の魔法って奴なんだと思うが……王子様、心当たりはねえべか?」  それに、どうして王子様が卵になってしまったのか、その経緯も気になる。  魔女とはいったが、この世界に魔法使いなんてものはいないはずだ。それはあくまでおとぎ話とか噂話の住人にすぎない。ということは卵にしてしまうこの能力は、誰かしらのスキルによるものである可能性が高いはずだ。 「……そうですね。まずそこから話さなければなりません」  卵は動けないが、ちょっと体を揺らすとか、卵を回転させるくらいのことはできるようだ。  まるでクッションの上、据わり直すように一回転する王子。 「実は、私には弟がおります。エドワードといい、年が離れていてまだ九歳なのですが」 「ふんふん」 「その弟とともに、休日には鹿狩りに行くのが日課でした。鹿狩り、は貴族の嗜みということになっていますから」 「鹿狩り……」  王族貴族の趣味は、噂程度では知っている。ソフィアは眉をひそめた。 「あんまり、俺は好きじゃねえな」 「命を粗末にする行為だから、ですか?」 「いんや。人は、生きるために狩りをするもんだ。その命を頂いて生きながらえてると言っても過言ではねえ。植物だって命だし、動物殺すのが駄目で植物はええっていうのも理屈が通らねえ話だがんな。けんど……鹿狩りは、生きる為じゃなくて楽しみにために狩りをすることだろ?殺した鹿をそのままにしていくこともあるってえ話じゃなか。俺は、そういうのは好きになれん。狩ったら、その血肉も毛皮も、感謝して有効活用するのが筋でなか?」 「……そうですね」
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