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結果を言えば、長岡くんの点数は2科目とも平均点に満たなかった。
理科は8点及ばず、社会はわずかに2点及ばなかった。
きっと本人も、社会のほうはそれなりに手ごたえを感じていたのだろう。答案を受け取った際、一瞬固まったように見えた。
それでも、すぐにいつもの明るい表情に戻って、点数で盛り上がる男子たちの輪の中に入っていった。
「あんなに勉強してたのに、結局平均点以下って、意味ねえじゃん」
そんな言葉にも笑っておどける長岡くんは、何を思っていたのだろう。
授業のあと、トイレから出てくる長岡くんを待ち伏せた。私の姿に驚き、さっと笑顔を浮かべた。
「ごめん、駄目だった。せっかく手伝ってくれたのに──」
私はその言葉を遮る。
「長岡くんが本気で頑張ってたこと、ちゃんと知ってるから。お母さんもきっと、元気をもらえると思う」
長岡くんは、じっと私を見つめていた。
「伝えたかったのは、それだけ」
くるりとまわり、教室に戻る。
少しして、速足で近づいてくる上履きの音が聞こえてきた。
「次こそ頑張るから、また勉強教えてよ」
長岡くんの横顔を、梅雨の晴れ間の日差しが照らす。
なぜだろう、口元が緩んでしまう。
私は顔を見られないように、明るい窓の外を向きながら、「しかたないなあ」と答えた。
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