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 はじめて指摘されたのは、小学校に通い始めて間も無いころだった。  給食のあと、友達と校庭の砂場で山を作って遊んでいると、同じ組の男の子ふたりが私を指さして、別人の固有名詞で呼んだ。それは未来のネコ型ロボットが活躍する漫画作品に登場するガキ大将の名前で、全く意味がわからなかった。なぜならそのキャラクターは大きな体をした乱暴者だが、私は当時から小柄で表向きは気も小さく、何より女だったからだ。  困って友達を見ると、彼女は気まずそうにうつむいた。  なにその反応?  首を傾げる私に、男子たちは続ける。 「歌ってみろよ! 『おーれーはハルカー』って!」  ガキ大将の特徴としてもうひとつ、酷く音痴だというものがある。男子が口ずさんだそのメロディは、彼の持ち歌の一部だった。 「気にしない方がいいよ」  友達は顔を上げて言う。 「う、うん」  歌といえば、午前中、音楽の授業があった。その際、先生から「杉野(すぎの)さん、もう少しみんなの声も聞こうね」と軽く注意を受けてしまったから、それを揶揄われたのだろうか。失敗を笑うなんてひどい、と傷ついたが、家に帰るころにはすっかり忘れてしまい、大して気に留めなかった。
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