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私の足は、ぴたりと止まる。
「ああ、大丈夫。早期発見だったから、ほぼ間違いなく治るって」
私はようやく、息を吐くことができた。
「けどやっぱり、治療は辛いみたいで。それで、俺も苦手な勉強で頑張って、結果出したら、母さんもちょっとは元気になるかなって」
立ち止まったままの私に、長岡くんは笑った。
「ほらな、変な空気になった」
そう言って、先に歩き出す。そんな彼に私は言う。
「なおさら、私の歌なんかに頼るべきじゃないと思う。苦しみぬくことが、大切なんでしょ?」
長岡くんが振り返る。はっとしたように、目が大きく見開かれている。そしてその目を細めると、落ち着いた口調で言った。
「そうだな。その通りだ。今までのことは忘れて」
重そうなエナメルバッグを揺らしながら、ゆっくり遠ざかっていく背中に、つぶやいた。
「勉強を教えるくらいだったら、協力できるけど」
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