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「……マジ?」
「なに? 嫌なの?」
「嫌じゃないって! けど、いいの?」
「特別ね。けど、録音はしないでよ。あと笑ったりしたら二度と口きかないから」
「わかってる!」
私は頭の中で合唱曲の前奏を流し始めた。だが、すぐに止める。
「今、携帯耳に当ててる?」
「え? ああ、うん」
「ならスピーカーモードに替えて、部屋の外に漏れない程度の音量にして」
「なんで?」
「耳元で聞かれるのは、さすがに恥ずかしすぎる」
長岡くんは素直に従ってくれた。
仕切り直して、前奏を再開する。どうしてもあの日のことが思い起こされるが、不思議と怖くはなかった。
1番を歌い終わったところで、「おしまい」と告げた。自分から切り出しておきながら、耳まで熱い。冷たいプールに頭の先まで潜ってしまいたい。
「サンキュー! すげえ目が覚めた。杉野さんの歌って、もはやエナジードリンクだよな」
「なにそれ」
つい笑ってしまってから、いつしかの運動場での出来事を思い出した。もしかして、彼は最初から私を気にかけてくれていたのだろうか。
「今寝たら、とんでもない夢を見る気がする」
いや、それはないか。
「じゃあ、頭が冴えているうちに、問題始めるよ」
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