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 小学3年生になったある夜、母や3つ上の姉と一緒にテレビを観ていた。例の漫画のアニメがやっていて、ガキ大将の歌声が悪いロボットを破壊し、めでたしめでたしという終わり方だった。その現実離れした描写に、私は笑ってしまった。 「こんなの、あるわけないよね」  その言葉に、何故かふたりとも黙り込む。  姉に同意を求めると、目も合わさずに答えた。 「あんたも、できそうだけど」 「……へ?」  姉曰く、私の歌声は相当ひどいものらしい。音程が外れているのはもちろんのこと、そのずれ方や揺らぎが独特で、強いて表現するなら、ような耐え難いストレスを受けるのだという。 「馬鹿にしないでよ! そこまでじゃないよね?」  いじわるなことを言う姉を叱ってもらおうと、母に助けを求めたが、母は黙ったまま目を閉じ、静かに首を横に振った。  以後、私は人前で歌うことをやめた。
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