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「大切な人を殺し、大切な島を傷付け、大切な文化を穢したその教団の道具であった歌を追放しないと、島民はどうにもやるせなかったんじゃないかな」楓歌と目を合わせるのに気まずさを感じ、雨上がりの澄んだ茜色の空を見上げた。「もう二度とこんなことが起こらないように、という願掛けでもあるんだと思う」
楓歌は暗い話に疲れた様子で、毒を吐くように重い息を漏らした。「そういうもんなのかな。人間って弱いね」
「弱いよ、人間って」
「この島では悪とされても、私は歌い続けるよ」
「うん、それで……いいんじゃないかな」
僕は鳴きながら森へ帰るカラスを目で追った。つられたように楓歌も空を仰ぎ、「帰ろっか」と呟いた。
「また、明日」「また明日」
この日から毎日、僕らはこの短い台詞で二人の時間を終わらせることになる。
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