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七月に入ると、梅雨で憂いた心を解き放つように、島内の海岸近くに生息するニッコウキスゲが咲き始めた。
この頃には、楓歌と出会って半月が経っていた。あの日から毎日小屋で顔を合わせ、彼女の歌に聴き入っていた。
梅雨真っ只中というのによく晴れた七月始めのある日。いつものように放課後に本を借り小屋へ行くと、そこに楓歌はいなかった。まだ来ていないのだろうと思い、外へ出て楓歌を待つことにした。この浜辺には、海を見渡せるベンチが設置されている。
そのベンチの脇には一輪、ニッコウキスゲが太陽の光にすがるように咲いていた。ベンチに腰掛け、今日借りた本を開く。
その瞬間、頬に硬く冷たい物が当たった感触がした。
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