この海に破戒の歌声を

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「お待たせっ」楓歌は僕の顔を覗き、桃色の液体が入った瓶を渡してきた。「これ、飲む?」  中学校の近所の個人コンビニで売られている『さくらコーラ』というドリンクだ。島内の子供は皆これが好きである。  ありがとう、と言い受け取ると、楓歌は隣に座った。 「せーのっ」二人同時に瓶の蓋をひねって開けた。  シュッと音を立て、炭酸が溢れる前に口に運ぶ。 「久しぶりに飲んだな」 「最初に出る感想がそれ? はい、やり直し」 「シュワっとした刺激の後に、春の風が鼻に抜ける。まるで心躍る四月に舞い降りたようだー。こんな感じでいい?」 「さすが文学少年」  そんな下らなくも美しく貴重な時の流れを、僕らはお互いを探るように慎重に歩いていた。
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