この海に破戒の歌声を

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 次の日、僕は地震の揺れで目が覚めた。かなり大きな揺れだった。  リビングへ行くと、義父と義母がテレビを観ていた。樫美島は震度5弱の揺れだったみたいだ。テレビ画面の左上には『7:54』と表示されていた。  週末には、楓歌は朝早くから小屋に行っていた。今日から夏休みということもあり、もう既に小屋にいるのではないかと考えた。そのボロ小屋が潰れでもしていたら……と思うと、僕はいても立ってもいられなかった。が、危ないから外には出るな、と義父から釘を刺されたため、しばらくは外出ができない。   昼過ぎになると、義父は車で外の見回りを、義母は昼食の片付けを始めた。今しかないと、僕は何かのお守りのように、楓歌の歌声を録音したレコーダーをポケットに入れ、小屋へ向かった。  小屋は潰れてなかった。むしろ、わざとらしく生気を感じるくらいに堂々と建っていた。  ドアを開け、ハッと息を飲んだ。
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