この海に破戒の歌声を

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 手が小刻みに震える。事実は暴力的に体の内側へと侵入してきた。教祖の娘が楓歌。そして、楓歌の母が山代紅葉。僕と楓歌は父親違いの兄妹……。想像を絶する楓歌の悲鳴が僕の体内から聞こえた。  全身から血の気が引き、冷や汗が滝のごとく溢れ出る。吐きそうになり、慌てて日記の一ページを破り浜辺へ出た。  頭を空にして水平線を眺めていると、段々と落ち着いてきた。  8月5日と書かれた紙を見つめる。彼女にはこの事実が余りにも重すぎたのだろうか。衝動的にその紙を細かく割き、勢いよく空へとばらまいた。破滅的な事実を揉み消すように。
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