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そこへ、あの日耳にした楓歌の言葉が空虚な脳の中で反響した。
--彼女は幸せだったのかな。
その言葉の意味を考えるよりも先に、僕は彼女のこれからを幸せにしてあげたいとふと思った。
楓歌はこの海を見ながら大声で歌えたらと言っていた。だとすれば、今はもうその夢を叶えるしかない。
ベンチへ行き、あの日置いた空の瓶を一つ手に取る。ポケットからレコーダーを取り出し、ボタンを押す。楓歌の歌声が流れた。
彼女はもう時空の彼方へ行ってしまったんだと悟り、せき止めていた涙がダムのように溢れ出た。
歪んだ視界で瓶の蓋を開け、楓歌の歌声が流れるレコーダーをその中へ入れ蓋を閉める。波の近くまで行き、波がさらって行けるようにそっと瓶を砂浜へ置いた。
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