俺様執着男が忠犬になれと命じてくるがアンタに飼われる気などない

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*** (あー、腰が痛ぇ)  昨日のオヤジがあの後も無茶しまくるから、絶賛バイト中なのだが立ち仕事が辛い。 (チップはずんでくれたから、まぁ良しとするが)  なるべく普通にしてたつもりだが、演技は下手なようで隠しきれていなかったらしい。  その証拠に、バイト仲間の紗夜(さよ)ちゃんが「宇賀神(うがじん)くんどうしたのー? 今日なんか具合悪そうじゃない? 代わろうか?」と声をかけてきた。 「あー、なんでもねぇから気にすんな」  心持ちピンと背筋を伸ばして答えてみたものの、心の中では盛大に舌打ちをしてしまっている自分がいる。  何故なら新作ソフトのポスターの貼り替え作業を、脚立に登っちゃぁ順繰り行っていく作業がかなり足腰にしんどいからだ。  ……けどまぁ、生活がかかってるし贅沢は言ってらんねぇんだけどな。  と――。 「宇賀神ー」  店長に呼びかけられて振り返ったら、また腰がグキリと痛んだ。 (あのオヤジマジ死ね!)  散々な身体のコンディションに、思わず心の中であの男に悪態をつかずにはいられない。  そんな心根を誤魔化したいみたいに努めて抑揚のない声音で「はい」と答えたら、途端店長の眉根がほんの少し寄せられるから――。 (マズイ)  おそらく今の俺、すげぇ仏頂面になっちまってる。  元々そんな顔付きとはいえ、これ、接客業には致命的でよく店長にも注意されてんのに、なかなか外面(そとづら)は作れねぇから困る。 「店のサブのパソコンが壊れちまったみてぇなんだよ。そこの三丁目のビルん中に販売と修理やってる『パソコンドクター大地』って店があるんだけど持って行ってくれないか? (うち)が世話ンなってるとこでさ。サブだから預けてきてくれて構わぇし、使いモンになんないならデータだけ抜いてもらってリサイクルで引き取ってもらっていいから」 「うっす」 (だりーけど仕方ねぇか)  なんて、この時はそこで災難が待っていることなど考えもせず、俺は店長の使いを承諾した。
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