363人が本棚に入れています
本棚に追加
***
このクソ暑い中ノートパソコンを抱えて辿り着いたのは、オフィスビルの三階に入っている、パソコンの修理業者だ。
自動ドアをくぐると、修理だけではないのだろう、販売用のノートパソコンもズラリと並べられていて、空調の効いた空間にやっと一息つく。
「いらっしゃいませ」
爽やかな男性店員の声に迎え入れられて、俺は条件反射で声の主に視線を転じて――目を見開いた。
「げっ」
男も俺に気が付いたらしく「誰かと思ったら、犬じゃないか。どうした? 職場にまで押し掛けてくるほど俺の忠犬になりたかったか?」と、こちらも仏頂面で話しかけてくる。
(さっきの爽やかな声は幻聴か……?)
「誰が犬だ! 死ね! アンタになんか二度と会いたくなかったっつーの。仕事だ、仕事」
カウンターにドンッとパソコンを置くと、男は品定めするように電源を入れるが、画面は真っ暗なままだで「あー、マザーボードあたりやられてるな。修理になるけどいいか?」と問い掛けてきた。
「任せる」
「まぁ、ちょっと説明するから裏に来い」
言って、男が顎で指したのはブラインドで仕切られているバックヤードのような場所だった。
(いや、説明ならカウンターでしねぇの?)
「他に従業員は?」
「俺一人でやってる店だ。ついてこい」
「へーへー」
――が、これが間違いだった。
最初のコメントを投稿しよう!