俺様執着男が忠犬になれと命じてくるがアンタに飼われる気などない

5/67
前へ
/68ページ
次へ
***  このクソ暑い中ノートパソコンを抱えて辿り着いたのは、オフィスビルの三階に入っている、パソコンの修理業者だ。  自動ドアをくぐると、修理だけではないのだろう、販売用のノートパソコンもズラリと並べられていて、空調の効いた空間にやっと一息つく。 「いらっしゃいませ」  爽やかな男性店員の声に迎え入れられて、俺は条件反射で声の主に視線を転じて――目を見開いた。 「げっ」  男も俺に気が付いたらしく「誰かと思ったら、犬じゃないか。どうした? 職場にまで押し掛けてくるほど俺の忠犬になりたかったか?」と、こちらも仏頂面で話しかけてくる。 (さっきの爽やかな声は幻聴か……?)  「誰が犬だ! 死ね! アンタになんか二度と会いたくなかったっつーの。仕事だ、仕事」  カウンターにドンッとパソコンを置くと、男は品定めするように電源を入れるが、画面は真っ暗なままだで「あー、マザーボードあたりやられてるな。修理になるけどいいか?」と問い掛けてきた。 「任せる」 「まぁ、ちょっと説明するから裏に来い」  言って、男が顎で指したのはブラインドで仕切られているバックヤードのような場所だった。 (いや、説明ならカウンターでしねぇの?) 「他に従業員は?」 「俺一人でやってる店だ。ついてこい」 「へーへー」  ――が、これが間違いだった。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

363人が本棚に入れています
本棚に追加