バンドに入った日

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 げっ今日も来た。  だから、バンドはやらないって言ってるのに。いったいなんなのこの人達。  年上?いや、下かな。うーん、でも同い年くらいかもしれない。目付きの悪い無愛想な青髪と、一見いい人そうなサラ毛のミルクティーブラウン。怪しい二人組。  そもそも、彼らが本当に楽器をやっているのかさえもわからない。  それは一カ月前、駅の近くの広場で弾き語りをやっていた時。  最後の一曲を歌い終え、帰ろうとすると。  「おねえさん、おねえさん!ちょっといいですか?」  高校生くらいの男の子に、声をかけられた。  可愛いかんじのイケメン君だけど、なんか胡散臭い匂いがする。    「なんですか」  ギターをしまい、帰る方向に目をやりながら冷たく応えると、「待って待って」男の子は笑顔でとおせんぼうしてきた。  うっざ、何こいつ。  「ナンパならお断りますが!」  「やだな、ナンパじゃないですよ〜」  「じゃあ何ですか?」  キッと睨みながら彼を見ると、彼は少し離れた路地裏のほうを見つめ、そちらに向けて手まねきしだした。  は、仲間がいるの?  そう思った拍子にのそりと現れたのは、背が高く、怖い顔をした男。耳にはピアスがたくさん付いている。  本当に私と話そうとしているのか、そばに来ても目を合わそうとしない。  「いやあ俺たちね、さっきそこでずっとおねえさんの歌聴いてたんですよ。すごい上手いですね⁈もー、めちゃくちゃいい声!この人もさあなたの声に惚れ込んじゃって。ね?孝則君」  そう言って、胡散臭い彼は、隣のピアス男を指差す。  ピアスの男は、相変わらず私のことを見ないまま軽く頷くだけだった。  「あ、そりゃ、……どうも」  「でね?」  「はい……」  「俺達も二人で音楽やってるんだけどさ、おねえさん、よかったら俺たちと一緒に、バンド組まない?」  「はいっ⁉︎」  「もちろん、おねえさんボーカルで!」  顔を上げて二人を見た瞬間、夜のギラギラ背景と共に、不思議な感覚を覚えた。  直感的に、人生のターニングポイントなんじゃないか。  そんな考えが頭の中を駆け巡ったけれど。  「お断りします」  怪しかったから、やっぱり断ってしまった。  それから毎週、なぜか彼らは私を見つけ出し、懲りずに誘ってくるのだ。  
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