バンドに入った日

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 彼らが退場してすぐ、ライブを見に付いてきてくれた友達のすずちゃんにバレないよう、滲んだ涙をサッと拭いた。  「めっちゃかっこよかったじゃん!あの二人。那月、もちろんメンバーに入るんでしょ?」  すずちゃんにそう訊ねられだけれど、私は少し悩んでいた。  「え、入らないの⁉︎」  「うーん。めちゃくちゃすごいんだけどさ、私とは音楽に対する向き合い方のレベルが、違いすぎるっていうか」  「えー、そうかな?」  「えー!入らないの⁉︎」  背後から、何回か聞いたことある声、飛び上がるように振り向くと、さっきまでステージにいたギターの子が立っていた。波瑠君、だっけ?確かさっき自己紹介した時、そう名乗ってた気がする。  すずちゃんは、側に来た波瑠君を見て顔を赤らめている。  その彼の後ろには、背の高く、目付きの悪いピアス男が腕組みをして立っていた。  「おねえさん、今日は来てくれてありがとー!」  「いや……」  「ね?音楽やってんの嘘じゃなかったでしょ?」  「……うん」  「どう、……バンド、入ってくれる気になった?」  「いや……。すごかった。思ったよりも桁違いにすごかった。感動した。……ただ、入ってみたいけど、私、あなたたちのレベルに合わせられるかな。て。不安で」  私が返答を渋っていると、波瑠君の後ろに隠れるみたく立っていたピアス男が、ズカズカと私のほうに歩いてくる。確か名前は、孝則君。  「俺は!」  「え?」  「あんたの声よりいい声を、今まで聞いたことがない!」  今まで喋らなかった孝則君が急に口を開いたから、私は瞠目した。そばに来た瞬間、あっちから目を逸らされたけど、誠意を伝えようとはしているみたい。  「上手く言えんが……その、あんたの声は、すごいと思う!  だから。あの、このバンドで、その、あの。俺の歌を……歌ってくれませんか……」  「あははは、孝則君、そんな声じゃ聞こえないって〜」  孝則君の声、だんだん小さくなるから、最後のほうはなんて言ってるか聞こえなかった。  でも、これだけはわかった。ピアス男(孝則君)は、絶対悪い人じゃない。  「いいよっ」  「「え!」」  「上手くできるかはわからないけど、頑張ってみる!」  「ほんとか⁉︎」  「うんっ」  「やったーっ!やったね?孝則君!」  「ああっ!やった!やったぞ!」  笑った。あ、そんな顔して笑うんだ。  その時、いつも怖い顔をしているピアス男が、私の返事を聞いてすごく嬉しそうに笑うから、なんだか少しキュンとしちゃったんだ。  私は生きるため、私のために歌っている。  だからまだ、誰かのために歌いたい。とか、そういう気持ちはよくわからないけれど。  今はただ、この人たちと、歌を歌ってみたい。  それで精一杯。  でもなぜかね。この人たちと一緒なら、いつか私にも誰かの背中を押せるような歌が、作れるような。  そんな気がするんだ。きっと。      
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