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この人はおかしい。おかゆを炊いて薬を飲ませても、口から出るのは亡くなった長男への悔い。遠くの金持ちのところに嫁にいった長女の心配。そればかり。では今あなたの目の前で世話をしている私は何なんですか?
そんな思いが高まった昼下がり。薬を飲んで眠っている母の首を絞めました。湿った母の首の手触りは、握りつぶした花に似ていました。
あなたに苦しみの声などあげさせない。私がここにいる限り、あなた歌など歌わせない。
思えば私も修羅になっていたのでしょう」
なぁあああぉう・・・・なああああぉう
猫の花が鳴いている。女は席を立ち、テラスの床に置かれた植木鉢に顔を寄せた。
不思議なことに、泣き叫ぶ猫の歌が、だんだんと静まっていった。
「この花は自分が何を探しているか分かったようです。さあ、ごらんなさい」
女に促されて、男も植木鉢を見た。猫の歌は穏やかな慈しむ旋律に変わっていた。
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