歌う花

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「百年・・・・」 「私もいつの間にか花になっていたようです。」 「あなたは実をつけなかったのですか?」 「行者様から頼まれたのです。この花畑を見守ってはくれまいか、と。村人の花はしだいになくなっていきましたがほら、あなたのように球根を持ち込む人が後を絶えませんから」 女は、男の足元にあるスーツケースに目を落とした。 「どなたかしら」 「妻です」 「殺したの?」 「いえ。自ら命を絶ちました。頸動脈を切って、私が帰宅したときには部屋は血の海でした。 妻は美しくわがままな女でした。あまりにも奔放なため両親からとがめられて私と形ばかりの結婚をしました。私はおとなしく、真面目であることしか取り柄のない男です。私ならば好き勝手しても辛抱すると思ったのでしょう。 実際私はすべてを受け入れました。あの美しい人が私の妻であるならば、それ以上望むものは何もないと思っていたのです。でも・・・・ やはり無理をしていました。私の心は荒んでいきました。間抜けな寝取られ男と陰口を叩かれるのは嫌でも耳に入ってきますし、妻は侮りの態度を隠そうともしないのですから。 そんな時、私は幼馴染の女性と再会しました。その人は私が飢えていたものを与えてくれたのです。労わりや思いやり。それがない人生は、やはり無理なのだと分かりました。
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