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女は声をかける。不安そうな顔をしていた男は、女の柔和な表情をみて安心したようだった。
「こんにちは。ここには、歌う花が咲くと聞きました」
「ええ。草原の花たちは、みんな歌いますよ」
「聞かせてもらえませんか」
「ええどうぞ。草原に上がればいくらでも聞けます。でも、最初に申し上げておきますが、楽しい歌ではございませんよ。辛く苦しい歌ばかり」
「構いません。ぜひ聞きたい」
「その前に、荷物を置きませんか。ずいぶん重そうだわ。お茶も差し上げたいし」
男がためらっていたが、女は半ば強引に手を引いて、玄関わきのテラスへ連れて行った。
テラスにはテーブルと椅子が置かれていた。女はそこに男を座らせた。
「ちょっとお待ちになって。今紅茶を淹れてきます。」
女は山小屋の中に入った。男は椅子に腰を下ろした。テーブルには小さな植木鉢が置いてあった。チューリップのような葉の陰に小さなつぼみが一つついていた。
見たこともない花だ。これも歌うのだろうか。男がつぼみに顔を寄せると、突然花が開いた。真っ赤なヒトデのような花びらの中心に、口が開いていた。人の口ではない。何かの獣だ。
猫か?
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