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そう思う間もなく、口が鳴き始めた。
「なぁああおう。なぁぁぁおう」
男は思わず後退りした。夜更けに泣き叫ぶ猫の声だったからだ。
「驚かれましたか?歌を歌うのは、人だけではありませんから」
いつの間にか女が後ろに立っていた。
「さあ、紅茶をどうぞ。この子の歌は、後で私がゆっくり聞いてあげましょうね」
女は植木鉢をテーブルから降ろしてテラスの片隅に置いた。差し出された紅茶は温かく、香り高かったが、ティーカップをもつ男の手は震えていた。
「あれが、歌なんですね」
「ええ。何かを探し、呼んでいる歌です」
「何を探しているのですか」
「さあ。それがわかるまで、花は歌い続けますし、私は聞き続けるのです」
山の頂から、ざあっと風が吹き寄せてきた。風に乗って、花畑から音が聞こえてきた。
歌だ。男の全身に鳥肌が立った。
おそろしい
男は椅子から立ち上がり、音に向かって仁王立ちした。そうでもしないと負けてしまいそうだったからだ。背を向けたり、耳を塞いだりしてはいけない。そんなことをしたら飲み込まれてしまう。
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