歌う花

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これはなんだ?抑揚とリズムを持っているから、歌ではあるのだろう。しかしなんと禍々しいのだ。切れ切れに言葉も聞こえてくる。 「・・・・苦しいよ。・・・」 「悲しい・・・・・」 「・・どうして・・・あなたは」 「・・・・ママ」 「憎・・・い」 悲痛、慟哭、呪詛、憎悪・・・・男が知りうるあらゆる負の感情が、歌となり風に乗り、男の元に届き、吹き荒んで消えていった。風がやむと、山小屋には再び静寂が戻った。 「あれが、あそこに咲く花たちの歌です」 「あんな歌ばかりなのですか」 「ええ。この草原にはもともと村があったのです。それはそれは貧しい村でした。子供たちは長男を残してみんな、十歳を過ぎたら下の町に働きに出されました。年季が明けても村に帰るものは少なく、町で結婚して暮らす者、都を目指して旅立つもの、皆、離散していきました。  私も父を早くに亡くして、八つの時に家を離れました。働きに出ていた商家で、同じような身の上の男性と知り合い結婚しました。
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