歌う花

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小さな長屋を借りて、夫婦二人で穏やかに暮らせると思っていた矢先、はやり病で夫はあっけなく亡くなってしまいました。茫然としておりましたところに村から知らせがありました。村にも病がはやり、私の生家では兄夫婦が亡くなり、母一人が床に就いているとのこと。他の兄弟たちには家族がおり、独り身になってしまっていたのは私だけだったのです。 私は村に帰りました。母の看病をしながらひと月も過ごしたでしょうか。突然、山が崩れたのです。雪崩のように地面が崩れ、村は土の下に埋もれました。 その時たまたま村を離れていた私をのぞいて、みな、亡くなってしまいました。 救助しようにも、土砂の深く埋まった人たちが生きているとはとても思えませんでした。ふもとの町からお坊さんが呼ばれて、形ばかりの供養をして、私の村はなくなってしまいました。 ひとりぼっちになった私は、ふもとの町で掃除女などをして生計を立てておりました。すると、山のほうから奇妙な音が聞こえるようになったのです。山からの風に乗って、悲しげな、泣くような、人間の声のようなものが、抑揚をつけて歌うように、聞こえてくるのです。
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