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私は思わず駆け寄りました。花の一つに顔を寄せました。その花にはどことなく見覚えがありました。見覚え、と言うよりも、何かの面影が見えたのです。
新三郎さんだ・・・・
それは庄屋の息子の新三郎さんの顔をしていました。気づいたとたんに花は歌いはじめました。
『どぉぉおしてぇええ』
私はのけぞりました。苦痛に満ちた歌だったからです。新三郎さんの花に応じるように周囲の花たちも歌いはじめました。苦痛と驚き、憤り・・・
自分たちはなぜ死んだのか、理不尽ではないか。そう訴える怨嗟の歌でした。
『やはり。己の死を受け入れられぬものが集まると、このような花が咲くことがあるのだ』
『これは皆、村の人たちなのですか?』
『そう。村人の魂から芽が出て花が咲いておる。不憫なことだ』
そう言うと、行者様はお経を唱え始めました。また、村と花畑との間に人の形をした杭を何本か打ちました。そうすることで風向きが変わったのか、花たちの歌がふもとの町に届くことは少なくなりました。
行者様は、花たちが無事に成仏できるまでは、と、毎日祈りを捧げます。
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