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私は行者様のお世話をしながら、ある花を探しておりました。きっとどこかに咲いているはずなのです。行者様がお経を唱えている間、私は花畑を隅々まで歩きその花を探しました。
そしてある日、やっと見つけたのです。私の、母の花を。
つぼみだった母の花は、私を待っていたかのように花開きました。
『おぉまえはぁあ、なぜゎたしをぉぉ』
私は迷わず花を握りつぶしました。指の間から花の汁が、赤い血のように流れていきました・・・」
ふう、と女はため息をついた。
「紅茶、冷めてしまいましたね。淹れなおして来ましょう」
そう言って山小屋の中に再び戻っていった。
男は深くため息をついた。何度となく、この山小屋を訪れる人に語ってきた話なんだろう。目を閉じると、悲しげな猫の歌が耳に響いてくる。猫は、誰に何を聞いてほしいのだろうか。
「お待たせしました」
女が新しい紅茶をいれて戻ってきた。
「お母様の歌を最後まで聞かなくて良かったんですか?」
女はうっすらとほほ笑んだ。
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