歌う花

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「私、最初に、たまたま村を離れていたと申し上げましたね。あれは噓です。私は村から逃げようとしていたんです。私は、母を殺したんですよ。母の首を絞めて、殺したんです。 我に返って必死に家から走り出して、ふもとの町近くまで来た時に、山が崩れました。私は母を殺して生き延びたのです。しかも、私の罪は土や岩の下に埋まってしまいました。 私は解放された。そう思っていたのに、死人から花が咲いて歌を歌うだなんて。 魂って球根みたいなものなんですね。一度花が枯れても球根が生きている限り何度も何度も芽吹いては花をつけて歌うんです。母は何度も歌おうとしました。そのたびに私は母を握りつぶしました。何度も再現される罪の場面。これもまた地獄ですわね」 「なぜお母さまを?」 「なぜ・・・。私が聞きたいくらいですわ。 なぜ、私は母の世話をしなければならなかったのですか? 母は私を愛しもしなかったのに。愛した兄妹はたくさんいたのに。あの子たちには面倒を見させられないからだなんて。なぜ私なんですか? 私の名前など呼びもしなかった。一番いらなかった末のむすめだったのに。病気になったら平然と世話になろうとするんですよ。
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