火と歌

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「うんうん、みんな今日も元気そうで何よりですね!」  私がマイクに向かって話しかけると、私の分身がモニターの中で笑顔を見せた。分身というにはちょっと可愛くしすぎちゃったかも。  こほん、とひとつ咳払いをする。 「えっと、今日は始める前にみなさんにひとつお知らせがあります」    私がそう告げるとコメント欄が勢いよく流れ始めた。 『!?』『え、もしかして』『なんだなんだ』『……結婚?』『おめでとう!』などの言葉が目に入る。 「ちがうちがう」とトーカは首を横に振って苦笑した。 「実は前から考えてたんですけど、今年の夏でこのチャンネルを開設して一年なんですね。ありがたいことに再生回数や登録者数もけっこう伸びてきてるんです。ほんと私みたいな素人の歌をいつも聴いてくれてる皆さんへお礼がしたいなって思ってて」  一度、言葉を切る。次の言葉が出てくるのに少し時間がかかった。  偉そうに聞こえませんように、と気を遣いながら話を続ける。 「それでですね、今度ここでオンラインライブみたいなことをやりたいなって思うんです。いつもは一時間の放送なんですけど、できれば二時間くらいで。曲数も結構そろってきたし……どうでしょうか?」  一瞬の静寂ののち、コメント欄が今日一番の激流となった。 『やったああああ!』 『最高かよ』 『トーカ単独ライブマジ?』 『今年の夏は熱くなりそうだ……!』  次々と現れては流されていく言葉の数々に、安堵と喜びで頬が熱くなる。 「みんなほんとにありがとう。詳細はまた決まり次第お知らせしますね。お楽しみに!」  いまだ勢いの収まらないコメント欄から一度目を離す。   そして私はギターを握り直した。いつもより少しだけ力が入る。 「さてさて今日も元気にやっていきましょう。一曲目はやっぱりあの曲!」
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