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「けどそれならちょうどよかった」
「なにがですか」
「今日はパーティーみたいなもんだから」
羽住さんはカーテンを開けた。窓から見える川辺はいつもなら静かで真っ暗なのに、今日はなんだか明るくて騒がしい。
ぱちりと羽住さんが部屋の電気を消すと、ぼんやりと窓が光った。子供のはしゃぐ声が聞こえる。
「始まるよ」
羽住さんの声を上塗りするように、どん、と身体の奥が揺らされたような音が聞こえた。
窓の光が閃き、色付く。
真っ黒だった空に大輪の花火が開いて、一際大きな歓声がそれに続いた。
「この病院穴場なんだって。誕生日おめでと」
そう言い残して羽住さんは病室から出ていった。
祭りはつづく。色とりどりの煌めきと花開く破裂音、そしてそのたびに沸き上がる歓声。
気付けば、私は泣いていた。
ベッドのシーツを強く握りしめる。大きな窓に次々と咲く花火を見ながら涙を流す。
感動の涙じゃない。これは悔し涙だ。
世の中にはこんなにも綺麗な花を咲かせて、こんなにも大勢の心を震わせる人がいるのに、私はベッドの上からそれを眺めることしかできない。
それが途轍もなく悔しかった。
こんなとこで何してんだろ。
ずっと昔に飲み込んだはずのものが喉の奥からあふれて、嗚咽とともに零れ落ちる。
病院と家を行き来するだけの一生なんか、やだ。
この日いちばん大きな花火が夜空を彩った。そのキラキラと瞬く火花を睨みつける。
──咲かせたい。私だって。
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