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この間の身に覚えの無い香水の話も、その前兆だったのだ。
捕食者化した人間の未来は暗く、大きく二つに分けられる。
被捕食者を喰らい尽くすか、被捕食者と物理的に離れ空腹に耐えられず廃人と化すか。
研究所では日々、捕食衝動を起こさない一般的な人間に戻す方法を模索し、捕食者化の進行を遅らせたり症状を緩和する薬剤の開発に明け暮れているものの、上手く進められていないのが実情だ。
どうして、麻呀が……。
声にならない声で名前を口にした手前、眠っていた麻呀の瞼がゆっくりと開いた。
「……し、ぐれ」
こちらに気づいた麻呀が、掠れた声で呼ぶ。
「具合はどう……?」
必要以上に混乱させないようにと、平静を装って尋ねたものの意味を成さなくて。
「俺、どうなって……っ」
跳ねるように上体を起こしては頭を抱え、語尾に連れて弱々しく震える声音。
恐怖に戦慄し、今にも泣き出しそうな表情。
本当は、もう少し落ち着いてから説明をしたかったけれど、今の麻呀を前にして誤魔化すことはできそうになかった。
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