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下手に話を逸らせばきっと、不安と疑心の増幅に繋がる。
「説明するから」
「……っ」
緊張した面持ちの麻呀に優しく微笑みかけ、史呉は静かに今起きている事の状況を説明した。
自分達の関係性が、捕食者と被捕食者に変化したこと。
これから麻呀の味覚は、史呉の体液や皮膚にしか反応しなくなること。
恐ろしい未来はあくまでも可能性の話なので、史呉は今はまだ伏せておくことにした。
「明日からは、この安定剤を飲んで」
甘い匂いも他の症状も緩和されるはずだから、と続けピルケースを手渡す。
「……分かった」
まるで小さな子供のように背中を丸くした麻呀は、そう小さく頷いて。
今にもバラバラに壊れてしまいそうな相手を前に、手を伸ばさずにはいられなかった。
抱きしめずにはいられなかった。
大丈夫だよ、安心して。
そう言えたなら、どんなに良かったか。
安定剤は、捕食者化を完治させる薬では無い。
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