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〜Ⅰ 魔術師〜
「父さん、早く銭湯の支度して。銭湯は毎日行ってるのにどうしてこうまでも支度が遅いんだよ。僕先に行くよ!!」
夕方になると銭湯は親子で行くのが毎日の日課であった。
「まぁ〜待ってくれ。いつ母さんに会うか?わからないだろ?一応身だしなみを・・・」
「たかが銭湯に行くために身だしなみ?父さんの目的は女だろ?・・・Ah〜呆れる。ここまで女好きだとは!!」
尚弥は銭湯に行く身支度は既に終わっていたので、ラファエルのおいて先に銭湯に向かった。
尚弥はの心は天空界へ帰りたいのはやまやまだが、ホントは母親に会いたかった。もっと言えば父親であるラファエルと母親との3人で、天空界で暮らしたかった。それもそのはず、尚弥はまだ12歳の幼き子供だ。下界では小学生だ。
銭湯につくと、女風呂にはいつものおばちゃん達が群がっていた。
「尚弥ちゃん。今日も秀斗さんをおいてきたのかい?今日は新しい銭湯仲間がいるんだよ。」
ラファエルの下界での名前は秀斗と呼ばれていた。それはそうとあるおばちゃんの影から、
「今晩は。お名前、尚弥ちゃんって言うんだ。よろしくね!」
髪の長い若々しい優しそうな女性が現れた。
この女性、なんでも記憶を失くしていて、催眠療法で記憶を戻す治療をしてるらしい。
名前は晴美。この銭湯の近くに越して来たばかりである。
「こんばんは。僕は父さんといつも一緒に銭湯に来ます。家もすぐ近くです。そろそろ父さんも来ると思うんだけど・・・」
そう会話してると背後から、
「こんばんは。こいつは俺の息子です。いや〜こんなキレイな方が銭湯にいるとは。どうですか?このあと息子と3人で食事でも・・・」
秀斗は何かを直感で感じ取っていた。
「面白いお父さんね。」
ちょっと晴美はびっくりしていた。いい大人が初対面で食事に誘う・・・ましてや子連れである。正直呆れていた。
先に男湯から秀斗と尚弥があがってきた。
「晴美さんになにか感じたでしょう!!もしかしたら晴美さんがお母さんなの?」
尚弥はちょっと期待していた。晴美は優しく包容力のある下界で言えば30前半くらいの歳だ。尚弥にとっては母親として申し分ない女性だ。
「どうかな~。確認する方法が一つだけある。しかしなぁ~!?」
「確認する方法って?」
秀斗は考え込みつつ、渋い顔で、
「一度だけ口づけを交わす事だ。もしもそれで俺の記憶が戻れば、それは間違いなく母さんだ。たが万が一俺の記憶が戻らなければ・・・相手の女性は下界では生きられなくなる。」
まだ秀斗の言っている内容が掴めない尚弥は、
「どういう事?母さんじゃないとどうなるの?」
「・・・死んで天空界へ召されるって事だ。」
ふたりは立ちすくんでしまった。会って間もないが、優しい気立ての良さそうな晴美さんにキスをして殺してしまったら・・・
このあとの晴美さんとの3人での食事で秀斗は口づけを交わすか?・・・
辺りはすっかり日が暮れ、遠くにはネオンが垣間見えていた。
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