0人が本棚に入れています
本棚に追加
〜Ⅲ 女帝〜
玄関のチャイムが鳴ると、尚弥が眠気まなこで現れた。晴美と秀斗の行方が気がかりだったが、睡魔には勝てずに布団に入っていたのである。
「おかえりなさい。あれっ晴美さん・・・やっぱり晴美さんが母さんだったの?」
秀斗が晴美と一緒に帰ったから、母親だと早とちりしたのである。
「尚弥君、ごめんね。私は尚弥君のお母さんじゃないのよ。私を良く見て。」
晴美は天空界での姿を表した。
「えっ!!ウリエルさん。どうして此処に?晴美さんはウリエルさんだったんだ。」
晴美は下界へ来た理由を尚弥は話した。そして母親の写真を尚弥にも見せた。
尚弥の目が滲んでいた。
「周りの人間の記憶をちょっと変えたから、今日からは隣の部屋に越して来た晴美お姉さんで、宜しくね!!」
晴美はそう尚弥に伝えると隣のドアの鍵を開け中に入っていった。
秀斗は晴美のゲンキンな態度に呆気にとられた。
「尚弥。あの手のタイプとは将来付き合うなよ。確実に男は尻に敷かれる羽目になる。」
期待はずれになって不機嫌な秀斗は尚弥に愚痴をこぼすと、リビングに向かった。
リビングのソファに座ると晴美から貰った一枚の写真を見つめた。
今から10年前、初めて尚弥の母親と知り合った。
尚弥の母親は重い病気を患い、手術中危篤状態になり天空界へ一時的に来た。
秀斗と尚弥の母親は会った途端恋に落ち、誰もが羨むふたりだと天空界中に噂は広まった。
秀斗はそこまでの記憶はなんとか戻ったが、まだまだその先の記憶がわからない。
しかし出会った頃の淡い懐かしい思い出に酔いしれた。
「そうだ。今ならば!」
秀斗はタロットカードを取り出し、カードをシャッフルし始めた。そして尚弥の母親を強く思いながらカードを一枚引いた。
『女帝の正位置』
(そうか・・・)
秀斗の目に再び涙ががこぼれた。
カードの意味は。
(私は貴方を待っています。全てを受け止めます。私は貴方のグレードマザーになりたいです。)
尚弥の母親からのメッセージのようだ。
(今日は懐かしい思い出に浸っていよう・・・)
いつの間にか秀斗は尚弥の母親の写真を胸に眠りについていた。
最初のコメントを投稿しよう!