2.リビドー

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2.リビドー

毎日同じことを繰り返すだけ、無駄な時間を垂れ流し続けて、きっとこのまま大人になっていくのか――。気怠くなりそうな思考に引き摺られそうになる。スマホのボリュームを上げ、絶えずイヤホンから流れ続けていたプレイリストの楽曲をシャッフルすることによって、意識が音楽へと傾く。 特段何も変化が訪れることはない学校から駅までの帰り道、見慣れ過ぎた景色にも飽きていた。――いつかこの歌詞のように僕にも世界が違って見えるだろうか――大好きなフレーズに耳を澄ませる。 目の前にいつものコンビニが見えてきた、つい引き寄せられてしまうのは何故だろう。何が欲しい理由(わけ)でもないが、取り敢えず入口へと向かった。 「えっ!?」 不意に誰かに腕を捕まれたようだ、身体が仰け反り強制的に止まる。一瞬、何が起きたのかわからなかった。次第に恐怖に心がじわりじわりと侵食していく、覚悟を決めてゆっくりと振り返ると、そこには見覚えが全くない――鋭い印象的な目をした――金髪ウルフパーマの男がいた。 「あ、ゴメン!あのさ、急で悪い、今から一緒に来て欲しい!頼む!この通り!」 そう一方的に捲し立てると僕の腕は離そうとはせず、深々とお辞儀している。金髪の黒くなってきた頭頂部しか見えない。 「理由を聞きたいです。僕ではいけない必要性も含めて、そして手を離して貰えないでしょうか?」 些か呆れてしまい溜息が漏れ出てしまうのは仕方がないだろう。素早く顔を上げて、嬉しそうな人懐っこい笑顔を浮かべる彼がいた。すぐに表情を打ち消し色を正す。そして真っ直ぐ僕の目を捉えながら、真剣な表情に変わる。 「俺と一緒に来てくれるまでは離せない。さっき口ずさんでいた歌を聴いて、やっと見つけたから……お前でないとダメなんだ。詳しいことは後で話す、だから来てほしい。非常識で迷惑な話だとおもう。だけど俺も譲れない」 「……歌?いつ?……」 戸惑いしかなく、上手く思考が纏まらない。手を離して貰えない不快感より、全身で訴えかける彼の目に、言葉に、囚われてしまう。――渇望しすぎて、聞き間違いでないのか?僕が必要?……歌?……よくわからない――だけど何故か素直に彼の言葉を受け入れた。疑い深い僕では有り得ない、でも自分の感覚だけは信じられる、誰よりもそう生きてきた。 「わかりました、一緒に行きます。教えてもらえますか?行き先だけでも」 「あぁ、すぐそこにあるライブハウスだけど。さぁ、行こう!俺、カケルよろしく」 ニコニコと笑う彼の顔を彩るゆるく巻かれた髪の毛のせいだろうか、嬉しそうに尻尾を振る犬と重なって見えた。コロコロと変わる彼の印象に思わず笑みが(あふ)れてしまう。
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