3.モーメント

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3.モーメント

「待たせた!連れてきたぞ!」 カケルがライブハウス『GAZE』の重いドアを押し開けながら言った。フロアの後方部分、1段だけある階段に座っていた派手髪の男が2人、一斉に振り返る。 「はやっ!えっ、ちゃんと説明したよね?」 「アサヒ、コイツがそんなことするわけないじゃん、何言ってるの」 「……説明はお前等と一緒のほうがいいと思って、まだ……」 2人に責め立てられたカケルの声は徐々に小さくなっていく。 アサヒと呼ばれていた男は短髪のグレーアッシュ、隆々とした腕の筋肉が半袖から剥き出ている。ガタイの凄さの印象とは違い、問題児を見咎める母のような眼差しをカケルに向けていた。 もう一人は高校生だろうか?僕と歳が変わらないように見える、白に近い金髪にピンク掛かったバイヤージュのマッシュ、拡張ピアスが目立つ。女子みたいな可愛い顔と派手な外見がアンバランスだった。 唇を尖らせ、不貞腐れ気味のカケルと一緒に彼等の側へ行く。 「こんにちは、僕が納得して付いてきたから大丈夫ですよ」 「へぇ〜、喋る声もイケボじゃん。カケルすげぇ……あ、ゴメン、来てくれてありがとう。オレはハル、よろしく〜」 「ウチのカケルが迷惑を掛けて申し訳ないです。ありがとう、来てくれて。僕がバンドのリーダー、アサヒです」 手をひらひらとさせて可愛い笑顔を浮かべるハル、菩薩のような微笑みを浮かべるアサヒ、第一印象が見事に崩れる2人だった。カケルは僕の方に振り向き、砕けた表情から先程と同じ鋭く射抜く眼差しでジッと見詰められる。 「俺はギター、作曲している。ずっと探していたんだ、楽曲を生かせる声を。偶然、通りすがるとき耳にした歌声に惹かれた。俺達バンドのボーカルになって欲しい。正直、もう他の奴では考えられない。経験も何もいらない、だから俺達とバンドやろう」 荒唐無稽な話だった、でも僕はここにいる。どこかでこうなることを期待してここに来た。――何かが変われるだろうか、いや変わりたい――だから真っ直ぐ僕を捕らえて離さないカケルの目を見ながら答えた。 「バンドの名前は?」 「『RAZZ』イイ名前だろ?俺たちらしくて」 「うん、いいね、気に入った」 ニヤリと不敵に笑うカケルにつられて僕も笑顔を浮べていた。
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