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4.
夕飯だと呼ばれた時は、いつもの優しい笑顔が素敵な母親が迎えてくれた。
父親は今日は仕事で遅いというので、母親と二人きりで食事をすることとなった。
百寧は普段通りに学校での出来事を食べることをそっちのけで話すのを、母親がそこそこに窘める。
見た目は至っていつもと変わらない食事風景で、その時すでに先ほどのことはすっかり忘れていた百寧は何とも思っていなかった。
だから、母親が引きつった顔を必死に隠そうとしていることさえ気づきもしなかった。
そんな百寧でも父親が帰ってきて、自室にいても聞こえるぐらいの言い合いをしていた時にはさすがに察した。
自分達はベータなのに、どうしてあの子がオメガなのか。
どちらか第二の性を偽っていたのか。
気づきたくもなかったが、浮気でもしていたのか。
そのようなことを売り言葉に買い言葉をする両親に、ここまで言い合っているのを聞いたことがなかった百寧は不安で不安で仕方なかった。
自分がオメガになってしまったばかりに、両親がこんなにも嫌な声で言い合うことになってしまうだなんて。
けれども、何がそんなに嫌なのだろうか。他二つの性とは違う発情期があるからなのか。特にアルファのことを見境なく誘ってしまうという特徴のそれは、数ヶ月に一度来る厄介なもので、それに関する事件も多いと授業の時言っていたが、まだそれが来てない百寧にはいまいち現実味がなかった。
だから、何がそんなにも嫌なのか。
頭まで布団を被った百寧はぎゅっと目を閉じて、両手で耳を塞いて、どうかこれが夢でありますようにと一晩中祈り続けた。
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