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5.
ところが、その祈りは虚しいものになってしまった。
一晩中寝れずにいた百寧は、しかし、朝になったら静かになっていたことで、やっぱり昨晩の出来事は夢だったんだと思い、眠気は微塵も感じず、両親がいるはずの食卓へと駆け出した。
「おはよー!」
息が少し切れ、それでも負けずに声を弾ませて挨拶をした。
「おはよう」と優しい笑顔と共に迎えてくれると思っていたそれは、現実では父親はそっぽを向き、母親は機械的に朝食の準備をしていた。
おかしい。
まるで百寧という存在が初めからなかったように感じられ、急に不安が押し寄せた百寧は、準備をし終えたらしく着席する母親に話しかけた。
「ママ、おはよー」
「⋯⋯」
「ねぇねぇ、なんで挨拶してくれないの? 百寧が挨拶しないと怒るのに」
「⋯⋯」
「ママが昨日、宿題も持っていっちゃったままだから百寧宿題してないよ。今日、先生に──」
「──うっさい!」
ようやく振り向いてくれたかと思えば、鋭い怒鳴り声に鬼のように険しい表情。
百寧は凝視したまま固まることとなった。
昨日、オメガだと無邪気に言った際に言われた声とは違う明らかに嫌悪しているような声だった。
どうして。
そこで父親が挑発するようなことを言ったために、また口喧嘩することとなった両親から逃れるように百寧は家を出た。
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