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そして今
初夏の夜、小さな居酒屋のカウンター席で男が一人でお猪口に熱燗を注いだ。
湯気が立ったお猪口を見つめている。
フンと鼻息でその湯気を蹴散らして、お猪口を手に取った。
ぐいっと本当に音がしそうな勢いでそれを飲み干し、トンと優しくテーブルに空のお猪口を置いた。
「うまい…。」
男は小さい声で言った。
そしてテーブルに置かれた焼き鳥を一口かじる。
咀嚼していると居酒屋の主人が男に話しかけてきた。
「お客さん、ウチの焼き鳥美味しいでしょ?」
「えぇ、美味しいです。塩加減がね、ちょうどよくて。ホントに美味しい。」
男の反応に満足したのか、居酒屋の主人は大きく二回頷いてまた仕事に戻った。
男は焼き鳥を飲み込み、またお猪口に熱燗を注いだ。
「俺はこういう人間なんだろうな。」
男はフフッと笑い、ぐいっと熱燗を飲んだ。
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