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中学校三年生〜永劫の傷跡
時は19☓☓年
「魔王!よかったぜ!?お前の太鼓!!ありがとな!!」
谷内正雄は親しみを込めて正雄をもじって「魔王」と呼ばれていた。
谷内自身もそのあだ名は気に入っていた。
谷内は少し不良気味の友人、高崎からぐっと抱き締められていた。
体操服に膝裏まで垂れる長く赤い鉢巻を巻いた二人は強く抱き合った。
中学校生活最後の体育祭で谷内は太鼓打ちを団長である高崎からお願いされていたのである。
ぶっくりと太っていて角刈り、そして顔の作りもお世辞にも良いとは言えない谷内にとって、スクールカースト上位グループに属しており、顔の作りもサッカーで研ぎ澄まされた肉体を持つ不良気味の人気者、高崎から応援団の太鼓打ちをお願いされるなど恐れ多いことだった。
谷内はスクールカーストでいえば真ん中から少し下辺りだ。
明るい性格の谷内を学年の仲間たちは不良グループを含めて温かく受け入れていたのだ。
「アハハ!!高ちゃん!!こちらこそ!ありがとよ!!お陰さんで楽しかったよ!!」
『これで…少し…少しかもしれないけど…亮子が振り向いて…くれるかな…。』
ハグを解いた谷内は古地亮子の姿を探した。
グランド中を見回した。
秋を感じさせる夕日がグランドを照らしている。
結局、谷内の幼馴染であり、思い人である古地亮子を見つけることができなかった。
体育祭は大成功、無事に幕を閉じた。
帰り道、応援団の仲間と少し話しをしていると帰宅時間がすっかり遅くなってしまった。
もっと話がしたい、いや、ずっとこうして話していたい、そう思っているだろう応援団の仲間達を教職員は蹴散らし教室から追い出した。
「じゃな!魔王!!」
「魔王!気を付けて帰れよ!!」
「魔王!!んじゃ!」
「魔王!じゃあなぁ!」
校門の外で応援団の仲間達は谷内に手を振った。
谷内と同じ方向に帰る友人はもう誰もいない。
高崎と他の応援団四人は同じ方向だ。
「うん、今日はありがと。じゃね。」
谷内はトボトボと歩き始めた。
しばらく歩くと急に破壊的な孤独感が谷内を襲った。
「何だよコレ…おいぃ…」
谷内は何かを思い出したかのように踵を返し、走った。
「ハァ!ハァ!た、高ちゃん!」
まだ近くを歩いているはずの高崎とその仲間達を目指して空に近い体力を振り絞り谷内は走った。
少し走ると薄暗い防犯灯の下にいる高崎とその仲間達の影が見えた。
どんどんと近くなっていく影に違和感を感じた谷内はビタッと立ち止まった。
「ハアハア…な、何だ?じ、女子…?」
高崎と応援団で副応援団長として活躍していた女子が向かい合っている。
「た、高ちゃん?」
谷内が近付こうとした瞬間、その防犯灯の下から「うぉぁ!」とか「きゃああぁ!」とか男女入り混じった声が聞こえてきた。
谷内は目を凝らした。
高崎とその副応援団長が抱き締め合っているのが見えた。
「俺は…勘違いしてたな…。」
谷内は再び踵を返して帰宅を急いだ。
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