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季節は巡り高校受験を終えた卒業式の前日、寒い教室の中で谷内の思い人古地が谷内に何かを渡した。
肩にかかるか、かからないかという長さで少し茶色く癖っ毛の髪を軽やかに揺らして座っている谷内から顔をプイと逸らしてかわいい柄の封筒のようなものを渡した。
「コレ。ん。」
谷内はポカンと間抜けに口を半開きにして反応した。
「お?おはよ。何だいこりゃ?」
「と、取りあえずしまってよ。魔王はホラ、いつも来んの早いからさ。今なら二人だけかなと思ってさ。」
古地は谷内の幼馴染だ。
顔が小さく身長も低く、顔の造りと髪型など総合的見ると本当に洋物の人形のような容姿だ。
日本人離れした西洋人っぽい顔つきだ。
谷内と話をしたり冗談を言い合ったりする仲だが受験シーズンを経てめっきり話すことも減ってしまった。
そんな中、古地の方から話しかけてきたのである。
しかも「今なら二人だけかな」という思春期の男子ならば誰もが鼓動を速めるであろう言葉を発したのである。
谷内の目の前がチカチカとし始めた。
「えぁ?ん?開けていいの?」
谷内は封筒に爪をかけようとした時、古地は叫んだ。
「駄ぁ目だって!!しまえって言ったの!!聞こえなかった!?」
可愛らしい顔を憤怒に染めて谷内に怒鳴った。
その迫力に谷内は驚き、目をぱちくりとさせた。
「家で読んで。分かった!?」
「う、お、おん…分かった…りました…。」
古地はたどたどしい谷内の返事を聞くとそのまま谷内の教室から出て行った。
古地は隣のクラスだ。
「な、なんだぁ?」
谷内は素直にその封筒を家に持ち帰った。
夜、眠る前に封筒を遂に破ったのだ。
ドクン…ドクン…
共に公園を駆け回り、ブランコに乗りブランコを押してあげたり、覚えたての自転車を押してあげたりと共に過ごした幼き日々が谷内の心で再生される。
ゆっくりと手紙を封筒から取り出して手紙を開いた。
『何も動けず、何もしてこなかった俺に…向こうから駆け寄ってきてくれるとは…もう…正直…もう諦めていたんだ。亮子…。』
手紙が開かれた。
魔王へ
今まで私といてくれてありがとう。
小学校から今までずっと一緒にいてくれて本当にありがとう。
高校は別々になっちゃったね。
残念だけど仕方がないよね。
応援団の太鼓打ち!カッコよかった!!
少し見直したよ!
何でもだるそうにしてる魔王があんなに一生懸命太鼓叩いてんだもん!!
本当にカッコよかった!!
明日卒業式終わったら、12時に裏門に来てくれるかな。
12時だったら誰もいないだろうし。
お礼がしたいんだ。
魔王だけに。
待ってます。
古地亮子
自分でも何の感情か理解できない涙が谷内の頬を伝った。
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