高校生〜天使の微笑

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高校生〜天使の微笑

充実していた中学校生活とは違い、谷内の高校生活は恐ろしく退屈な毎日だった。 自宅から最寄り駅、最寄り駅から高校の最寄り駅、駅から歩いて登校、帰りはその逆をひたすら繰り返すのみである。 学校生活も実に退屈だった。 人数は多いが谷内が通っていた中学校からは谷内を含めて三人しか通っていない為、話す人間もいない。 その為人間関係の輪も広がらない。 自分が「勘違いザコ」と自覚してしまった谷内は人間関係を新たに構築するなどできなかったのだ。 虚無の中にいる上に中学校生活とのギャップに苦しむ毎日は谷内に終わりのない苦痛を与え続けていた。 そんな毎日に時折天使が現れていた。 自宅から最寄り駅まで自転車で行くのだが、周辺でも制服がかわいいと評判の高校に通う古地と合流することがあったのだ。 合流できない時の方が多かったが、それを楽しみに退屈な学校に通っていたと言っても過言ではない。 一年が過ぎ、二年生になっても特段変わりの無い毎日を過ごしていた谷内の目は段々と虚ろになっていく。 そんな中高校二年の秋である今日天使が舞い降りた。 「魔王!おはよ!」 「…お、おう!」 かわいいと評判の制服を日本人離れした洋人形のようにかわいい古地が着ているのだ。 その美しさはもう天使を通り越して悪魔だ。 谷内の乗る自転車の後ろから追い抜きざまに声をかけてきた古地はスピードを落として谷内にスピードを合わせた。 「そうだ、魔王。」 「どした?」 「ポケベル買った?」 「あぁ!そうだ買ったんだよ。」 谷内は中学校時代の仲間とよくつるんでいたが、その仲間達がポケベルを買ったと騒いでいるのを聞いていた。 自分も虚無な高校生活の中で、中学校時代の繋がりを求めてアルバイトをして先週末に遂に購入したのだった。 「ええ!?番号教えてよ!!なんで昨日教えてくんないの!?」 口をぷぅと膨らませて古地は言った。 「んあ!ご、ごめん!わ、悪いな!最近バイトが忙しくてさ、ぼんやりしちまって…。」 「バイトしてんだ。停学食らうよ?」 「大丈夫、絶対バレねぇんだ。」 「すんごい自信だね。」 「そりゃそうだ。親戚の手伝いなんて誰も見にこないよ。」 「あぁ、そゆこと。」 そう話している駅の駐輪場に到着した。 二人は同じ区画に自転車を置くと、古地がすぐに駆け寄ってきた。 「魔王!ほら、番号!教えて!早く!電車来ちゃうじゃんか!」 「おお。悪い、じゃあいい?」 「うん!」 この日から他愛もない会話をポケベルの無機質な文で行なうようになった。 駅までの道のりで古地と合流できなくても、直接声を聞くことができなくても会話ができる、その会話は谷内の退屈な毎日に彩りを与えてくれた。 ポケベルが谷内に与えたものは本当に大きなものだったのだ。
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