成人式での再会

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成人式での再会

「魔王…お前…なんか変わったな…。」 この頃成人式での元不良がする格好の定番、紋付き袴の出で立ちで高崎はスーツ姿の谷内に言った。 「まぁ…色々あったからね。」 「ま、後でゆっくり聞いてやるよ。今日はせっかくだから楽しもうや!」 「あ…あぁ、そうだね。」 この地域の成人式は中学校ごとに集合エリアが決められていた。 その集合エリアから市の式場に向かうというシステムだった。 式の前に同じ中学校の仲間と再会できるという粋なシステムだ。 『皆んな…可愛くなったなぁ…。ホントにさ。亮子は?亮子はいるのか?来るよな?当然来るよな?』 谷内は可愛いというキーワードで古地をハッと思い出した。 古地はすぐに見つかった。 あまり変わっていないが、やはりその美しさは健在だ。 可愛い部分は削ぎ取られ、色気にシフトしている。 二十歳にしてこの色気はやはり周囲の目を引くものだ。 古地は振り袖姿で大きく手を振り、谷内の元へやって来た。 「魔王ぉ!!久しぶり!!ヤバいね!超痩せてんじゃん!?」 「ハハハ…痩せたんじゃなくてさ、痩せてしまったんだよ…」 『その原因はお前でもあるんだがな。』 谷内はギョロッと笑顔の古地を知らず知らずに睨んだ。 「あ、あの…魔王ってば何か変わった…ね?」 「まぁ…色々あったからね。」 「す、そ、そうなんだ…ん、んじゃ!また後でね!!同窓会楽しみだね!出るんでしょ!?」 「もちろん、出るよ。」 「そか、じ、じゃあ後でね!」 谷内は古地を見送ると無言でその場から去った。 成人式は滞りなく終了した。 仲間がたくさんいる者はそのまま昼食を共に取り夕方の同窓会まで語り明かすのだろう。 谷内にはそんな予定は無い。 高崎も元不良仲間達と出かけるのだろう。 谷内はこの時改めて自分の勘違いを恥じた。 自分は何者だと思っていたのだろうか、自分は何様だと思って行動していたのだろうかと。 闇に包まれた高校生活と自身の手のひらから飛び立った古地への行き場のない感情、そして社会に出た後のスパルタ教育と、谷内は中学校の卒業式から闇へと落ちていく一方だ。 何も救いは無かった。 「帰ろ。腹減った。」 谷内は中古のセダンに乗り込み、実家へと戻った。 「一度の勘違いでこんなに人生変わるとは思わなかったな…。俺ってこんなに人と話せなかったか?むしろ…一人の方がよく喋りやがる…。」 車を運転しながら谷内は自分の目をルームミラーで見た。 まるで生気がない。 「こんなツラ…両親には見せられんな。でも夕方まで時間潰す場所なんか無いしなぁ…。まぁいいか。帰るって言ってるしな。」 谷内はアクセルを思い切り踏んで、何かを振り払うように車を飛ばした。
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