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同窓会で谷内には古地と話す時間が与えられた。
円卓に座り、パーティーは始まったが行儀が良いのは最初だけだ。
徐々に皆酔いが回り、席を立ち話をし始める。
古地がわざわざ谷内の元へやって来たのだ。
「魔王、どうしたん?なんか凄い不健康な感じだね。」
ほろ酔いの古地の色気は凄まじいものがあった。
それを振り払うかのように谷内は努めて明るく返事をした。
「いやぁ…なんか最近忙しくてね。」
「そうなんだぁ…彼女できた?アレから。」
「…いや。」
谷内は小さなコップに入ったビールを飲み干した。
「そっかそっか、ビールでいい?」
「…あぁ。」
古地はテーブルにある瓶ビールを手に持ち、谷内のコップに両手で注いだ。
何の傷もない綺麗な手だ。
「あたしもね、彼氏とは別れたの。」
「ふぅん…。」
谷内は自分の目を真っ直ぐに見てくる古地から咳き込むふりをして顔と目を逸らした。
「酷いんだぁ…最初は優しかったのにさ、一回エッチしたらもう駄目よ。もうめちゃめちゃにされちゃってさ…。」
ここまでは谷内の想定の範囲内だ。
動揺はしているが予想してだけあったまだ自分を保てている。
しかし、次でその自分は崩壊することになる。
「一回エッチしたらさ、もうその後全然大切にしてくんなくなっちゃった。」
「大切にされない?どういうこった。」
「毎回ゴム無しだよ?酷くない?妊娠したらどうするのって。聞いたらさ、子どもできたら産めばいいんじゃんだって…。あたしの都合無視だよ?毎回ゴム無しな上に毎回中で出しちゃう。もうこりゃ自分が保たないと思ってね、別れた。」
そこから先はあまり覚えていないと、谷内は後に語っている。
この後、酔いも手伝ってか聞くに耐えない開発の話をされたらしい。
古地は自分の手のひらから飛び立ったどころではなかった。
飛び立ち、自分に攻撃を加えてくる毒虫へと華麗な成長を遂げてしまったのだ。
「俺はまだこの時はよく分からない希望を持っていたよね。本当に自分は馬鹿だと思うよ。なんでここまでして希望を持つんだって。不思議な人間だよ、俺は。生まれ変わったらまた自分になりたいって奴がいるけど俺は死んでもごめんだ。」
谷内はそう語っている。
飛び立った蝶は二度と人の手には帰らない。
そしてその蝶は一回り二回り大きく成長してしまった。
谷内が知らない世界を幼馴染はしっかりと経験し、今自分の目の前にいる。
「それでも違う生き物に感じなかった。明らかにあの時の亮子じゃないのに…それでも目の前にいるのはあの時の古地亮子。それにしか見えなかったんだ。」
谷内はそれでも行動を起こすことはできなかった。
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