第一話

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狼に生まれたヒトは皆主人のはずだが、不思議なことにこいつは手駒だった。 それに、こっちが心配になるくらいに主人を突き放すものだから、支配者(チーフ)と呼ばれる、主人の中でも特に権力と実力を持っている医者しか診ることができない。 支配者は主人ではあるものの、手駒を怖がらせるどころか安心させることができる。 こいつを診てるからには、俺は支配者なんだけど――― 「フゥ"ー、フゥ"ー……」   なんでこうなる……? ありえないくらいに警戒してるし、体が震えている。それに、飲み込みきれなかったであろう唾液が口の端から垂れている。 こいつに支配者の力が効かないのも不思議だけれど、こいつといると俺までも変になる。  身体が上手く動かないし、声が出にくく声の高さが自由に変えられない。 何より、こいつが物みたいに見える。自分の物にしたくてたまらない。 医者として、主人や支配者として、そんなことが許されるとは思わない。 それに、俺はこいつを診るためにここにいるのだから、優先すべきは本能ではなくあくまで診察だ。 「ほら、こっち来て。……早く。」
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