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「頼み?なんのことだ?」
店主「この病院に、確か『ロウ』という名前の狼がいるだろ?」
「……あぁ。あくまで俺らがつけた名前だがな。あれだろ、狼で手駒の。」
店主「そうそう。いやな、私がここで働いているのは、私がそいつの祖父だからなんだよ。」
「……そう、なのか。」
店主「あいつが人間になった姿を一目見たいのだが、どうしてもヒトを人間にできるくらいの金と体力はなくてな。なぁ、お願いだから、あの子を人間にしてやってくれないか?あわよくば、人間になったあの子に会わせてくれ。お願いだよ。」
「……」
店主が店のカウンターを乗り越え、俺の肩に両手をおいてくる。その手は、どこかもう弱っているように思えた。
店主「……私はな、数年前から病気なんだ。あと何年、何ヶ月、何日この体がもつかわからない。せめて、1度だけでもあの子の笑顔か、人間になった姿を見てみたいんだよ。」
店主の頬を涙が濡らす。すでに血管が浮き出た手が離れていったかと思えば、ゆっくりと頭が下げられ、こう告げられる。
店主「あの子に伝えておいてくれないか?どれだけ時間が経っても、私が死んでいてもいいから。『狼人は私の生きる希望だった』とだけ。」
そう言うと、店主は役目を終えたように床に倒れ込んだ。
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