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誰もいないと思っていた山の中だ。
ゾッとしてもおかしくないシチュエーションだが、それよりも先に私が感じたのは、気恥ずかしさだった。
そもそも「誰もいない」つまり誰にも聞かれないと思っていたからこそ、おかしな歌を歌っていたのだ。
それを聞かれたのであれば、本当に恥ずかしいではないか!
ハッとして振り返った途端、ガソゴソという木々の音も耳に入ってくる。
そちらに視線を向けると、ちょうど山の木々を分け入って、子供が出てくるところだった。
白いシャツに、スカートっぽい形状の半ズボン。麦わら帽子を被った、四歳か五歳くらいの女の子だ。
目元に手をやっている仕草に加えて、頬を伝わる涙もはっきりと目視できた。どうやら泣いているらしい。
「お嬢さん、どうしたの?」
なるべく優しく声をかけてみたのだが、子供は突然、キッと表情を険しくする。
「お嬢さんじゃないよ! 僕、男の子だよ!」
「これは失礼」
おどけたような口調ながらも、謝罪の言葉が反射的に飛び出した。
他人事に思えなかったのだ。
もうすっかり忘れていたけれど、そういえば私も小さい頃、何度か女の子に間違われた。母が洋裁を趣味としていた関係で、手作りの洋服が多かったのだが、それらがほとんど女物みたいな色や形だったらしい。
それこそ目の前の子供と同じように、傍から見たら「スカートっぽい形状の半ズボン」みたいな感じだったのだろう。
「それじゃ、改めて坊やに質問だ。一体どうしたんだい? 何か困ったことでもあるのかな?」
「ええっとね、今日はパパもママも忙しくてね。だから一人で遊んでたんだけどね……」
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