山で遊んじゃいけないよ

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     小さな子供なので、たどたどしい話し方だった。 「いつもと違う遊び場」とか「ちょっとした大冒険」という言葉も聞き取れたが、その辺りは重要なポイントではなさそうだ。  要するに、この山で迷子になっていたらしい。 「なるほど。それじゃ、おじさんと一緒に、この山から出ようか?」 「うん!」  元気よく返事した子供の手を引きながら、私は山道を降り始めて……。 「ここまで来れば、もう大丈夫だろう?」  茶色い土の道が終わり、アスファルト舗装の道路に出たところで、子供の手を放す。  家まで送る必要はないだろうし、そこまでするのはむしろ過剰だろうと思ったのだ。  ここは田舎だから大丈夫だけれど、もしも都会だったら、他人の幼児を連れて歩くのは事案扱いされかねない。  ……とまで考えてしまうのは、都会暮らしで染み付いた心配性だろうか。  そんな私の内心なんて当然、知る(よし)もなく……。 「おじさん、ありがとう!」  子供は大きく腕を振って、クルリと背を向けてから、嬉しそうに帰っていく。  足取りも(かろ)やかで、スキップしながらだった。  そのリズムに合わせて……。 「山で遊んじゃ、いけないよ。迷子になって、困るから。山は危険が、いっぱいだ。クマにイノシシ、悪いひと」  子供が口ずさんでいたのは、あの奇妙な歌だ。私が山で歌っていたのを聞いて、覚えてしまったらしい。  一回聞いただけなのに、しかも泣いている最中(さいちゅう)だったはずなのに、小さい子供は本当に覚えが早いものだ。    
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