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腰まで伸びた真っ黒な美しいストレートの髪、まるでドレスのような真っ黒なワンピース、真っ黒な日傘。黒を着ていると重たい雰囲気になってしまいがちだが、まるで絵画のように綺麗なその人。
気がついたら声をかけていた。
「あの! あなたは俺の探し求めていた人なんです!」
「は?」
「俺のイメージする幽霊役にぴったりなので、ホラー映画に出てみませんか!?」
その言葉に美咲はキョトンとしたが、にっこり笑うと日傘を折りたたんで傘の先端で男の鳩尾を一突きしていた。
「あまりにも失礼すぎて、逆に笑えた」
「あの一撃マジで痛かったけどね」
ナンパではなくスカウト、しかも幽霊役で出てくれと言うのだ。本当に失礼極まりないが、今までにないタイプだったので美咲は了承した。
結局映画は注目されなかった。シナリオの練りが甘いのと、女性の雰囲気が怖いと言うよりも神秘的な感じで迫力に欠けるという評価だったのだ。
いけると思ったのに厳しい評価。彼は落ち込んだ。そんな中、美咲がこんなことを言ったのだ。
「私持病のせいで免許を取る許可が降りなかったから運転できない。連れて行って欲しいところがあるんだけど」
レンタカーを借りて美咲の案内するままに、廃墟の病院にやってきた。その病院に当時入院していたという話は聞いた、揉めに揉めた家庭の事情も。
美咲はまっすぐ三階にある一つの病室に入るなり、そこに女の子がいるかのように会話を始めたのだ。手は折り紙を折っているかのような動きだが、もちろん手の中には何もない。何をしているのかわからなかったが、彼は静かに見守っていた。
「黒以外を着ないのは、その時の経験から?」
「光がさせば必ず影ができる。生きている証明でもある。わたしは今ここにいるって思える。それに、言葉遊びかな」
「ああ、黒と苦労がかかってるのか。あと、英語でcrowだっけ」
「そう。なんだかいろいろひっかかって面白い。髪も、いのりがみと願掛けをかけてるんだけどね」
いつも黒服の美咲は親族から気味悪がられていた。すぐに死ぬから喪服なのかと嫌味を言われたが、死者が白い服で黒は参列者の服だ馬鹿すぎる、と言い返すと誰も何も言わなくなった。親も含めて親族とも縁を切っている。
美咲は黒い服や小物が似合いすぎている。ストレートの髪はどんな手入れをしているのか知らないが、風に揺れるとさらさらと流れる。思わず手を伸ばしたくなるほどに。
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