2人が本棚に入れています
本棚に追加
✩.*˚
そんな馬鹿な…
モニター越しではあるが、確かにこの顔が吹き飛ぶのを見たはずだ…
警察が到着する前に、人魚を手に入れるつもりだったが、向かった先の部屋の前に立っていたのは一番の障害として取り除いたはずの男だ。
撃ち抜かれたのは身代わりだったのかと勘ぐったがそれはありえない。
そうならないために、俺が直接電話をして間違いないと確認した上で狙撃手にゴーサインを出している。間違い無いようにカメラで最初から最後まで監視していた。
それなのに、この眼の前の男は何だ?
「やぁ」と笑う顔には傷一つついていなかったが、彼の首元から覗くシャツは不自然な赤で濡れていた。
不死身の噂は本当だった…
この男は頭を吹き飛ばした程度では死なないのか?
セイレーンの騎士様は確かに化け物だった。
本物のカポ・オルカを前に、滅多に感じない感情が湧いた。俺の命がけの大博打は失敗に終わったらしい…
しかし、そうでなければ、俺が命を賭けてまでセイレーンに手を出した意味がない。眼の前の男はセイレーンの価値を更に高めた。
「随分な歓迎痛み入るよ…その分じゃ、あの話も嘘だったみたいだな…」
「まぁ、嘘も方便さ。あんたには悪いがね」
「まぁ、いいさ。俺も彼女も楽しみにしてたんだが、これじゃ目立ちすぎた…エリア51観光はまたの機会にするよ。
ところで、彼女のステージは続いているんだ。君は美女のショーの邪魔をするような無粋な男じゃないだろう?」
「まだ諦めちゃいないさ…なんたって、《不老不死》が目の前にあるんだ」
「…何を知ってるか知らないがね、彼女の肉を食っても君は不老不死にはなれない。君は《セイレーンの子》としての条件を満たしていないからね」
「それなら教えてくれよ、カポ・オルカ。どうすれば俺はあんたの《兄弟》になれる?」
「教えたところで君が条件を満たしていないのは変わらない。今さら、乳飲み子には戻れないだろう?」
「そいつは、なぞなぞか?」
「いいや。言葉の意味そのままさ…」と、若い容姿の老人はもったいぶるようなナメた口調でほざいた。
そのいかにも人を食ったような態度が気に入らない。
「あぁ、そうかい?」と呟くのと同時に手にしていた凶器が火を噴いた。
立て続けに轟音を鳴らした銃から熱を持った薬莢を吐き出し終わると、軽口を叩いていた男はすでにひき肉に変わっていた。上半身を散弾でズタボロにされた身体は何の不自然もなく当たり前のように廊下に倒れ込んだ。
これが《不死者》か?
拍子抜けするほどあっけない。ただ、その姿は先程で見た映像と似通っていて気味が悪い。
歯止めがきかずに、随分と派手にやってしまった。警察が来るまで時間がない。邪魔者は再び排除した。これ以上時間をかける理由もない。
「人魚はそう簡単に死なないはずだ。最悪、死体が手に入ればそれでいい。必ず手に入れろ」と部下に指示を出して、そのまま部屋に突入させた。
セイレーンの歌を聞かないように耳を塞いだ部隊がハンドサインで突入する。
陸に上がった人魚は、簡単に人の手に落ちるかに思えた…
最初のコメントを投稿しよう!