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これはむかしむかしの海のお話。
人魚の国でのお話です。
「これが最後のテストです」
黄金の髪を逆立つように波打たせながら一人の人魚が言いました。
サメのような牙を持ち、身体も他の人魚より3倍は大きいという迫力があり、顔に複数の皺を刻ませていることからいくらか年をとっていると思われる人魚でした。
彼女の名前は、オコルド。
オコルドが燃える赤い瞳をギョロリと1人の人魚に向けました。
オコルドの前にいる人魚は、たった一人の少女です。
目が合った人魚は、オコルドの前にいるのが自分一人だという心細さで泣きそうな顔をして震えあがりました。
オコルドの黄金の髪とは違い、今にもどこかに流されてしまいそうなほど細長い肩ぐらいまでの桃色の髪を揺蕩わせながら、緑色の瞳に海とは違う別の雫をいっぱいに溜めていました。
「さぁ、歌いなさい」
刺を突き刺すような物言いに桃色の人魚の少女、エナイは震えながら口を開きました。
その歌は、聞くに堪えないほどに音程が外れた歌でした。
ドの音になる筈の音程がラに。
高い音のレになる筈の音程が低い音程のシに。
そうなるほどに音が外れた、音痴の歌でした。
「もう結構」
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