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それにエナイが気づき始めると、貝殻の外が「泡が出てこないぞ」「何故だ?」と騒がしくなっていました。
エナイは、いちかばちかと、“泡を出して”と願いながら小声で歌いました。
すると、エナイの姿はそのままで泡が体中から溢れ出ました。
もしかしたら消えてしまうかと思いましたが、泡は貝殻からあふれ出ても、エナイの姿は消えませんでした。
「よし、泡になったようだ。念のため貝殻の中を確認しよう」
エナイは、その声を聞いてこのままではエナイが消えていないことがバレてしまうと焦りました。
エナイがいるとわかれば、きっとまた閉じ込められてしまいます。
エナイは、また小声で歌いました。
“透明になりたい”という願いを込めて。
貝殻が開きました。
開いたのはオコルドでした。
目が合いました。
エナイは息を飲みました。
けれど、オコルドはまるでエナイがそこにいないかのように貝殻の中を見渡すと「よし、ちゃんと消えたみたいだね。はぁ、せいせいした。あの鬱陶しい音痴な歌を聞かずにすむと思うと気持ちが晴れるよ」と醜い顔で笑いました。
ぞっとするようなその顔を真正面から見たエナイは、急いで貝殻から脱出しました。
緑色の瞳からは、涙があふれて止まりませんでした。
早く逃げなければいけない。
でもどこに?
気づけばエナイは、行ってはいけないと言われていた人間の区域にたどり着いていました。
「ああそうだ、どうせ人魚の国で受け入れられないのならば」
別の生き物になればいいんだ。
エナイは歌いました。
人間になりたいという願いを込めて。
するとエナイの意識が一瞬で暗闇に覆われました。
こんなことは初めてで、何か起こるのかと恐ろしくも思いましたが、どこか安心するような何かに包まれるのを感じて、そのまま瞼を閉じました。
そうして次にエナイが目を覚ました時。
エナイはふかふかの白い布の上にいました。
それがベッドという名前なのは後に知ることになりました。
「大丈夫かい?」
そう言って自分の顔を覗き込むのは、とても美しい少年でした。
黒い瞳に黒い髪。
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